「蓄熱材」とは、熱エネルギーを一時的に蓄え、必要なときに利用するための材料です。省エネルギーや再生可能エネルギーの有効活用、工場排熱の利用、建物の空調、温度管理など、さまざまな分野で活用されています。
本記事では、蓄熱材の基本から、顕熱蓄熱・潜熱蓄熱・PCM・化学蓄熱の仕組みと違いまで、熱工学の視点からわかりやすく解説します。
蓄熱材とは何か
蓄熱材とは、熱エネルギーを一時的に蓄え、必要なときに取り出して利用するための材料です。身近な例では、温水タンクに蓄えられたお湯も、熱を蓄えて後から利用するという意味では蓄熱の一つです。
「エネルギーを蓄える」と聞くと、蓄電池を思い浮かべることが多いかもしれませんが、エネルギーは電気だけでなく、暖房や給湯、冷房、工場での加熱・冷却など、さまざまな場面で「熱」として利用されています。
ところで、利用できる熱が発生するタイミングと、その熱を必要とするタイミングは必ずしも一致しません。そこで重要になるのが蓄熱技術です。利用可能な熱を蓄熱材にいったん蓄え、必要な時間や場所で利用することで、熱エネルギーをより有効に活用できます。
「熱を蓄える」方法には、材料の温度変化を利用する方法、固体から液体などへの相変化を利用する方法、化学反応などを利用する方法があります。
まずは、蓄熱材がどのような役割を果たしているのか、そして「熱を蓄える」とは熱工学的にどのようなことなのか、基本から見ていきましょう。
蓄熱材の基本的な役割
蓄熱材の基本的な役割は、熱エネルギーをいったん蓄え、必要なタイミングで取り出せるようにすることです。
また、蓄熱材は高温側の熱を蓄えるだけではありません。冷房や冷却に利用する「冷熱」を蓄えることもできます。例えば、夜間などに冷熱をつくって蓄えておき、昼間の冷房に利用すれば、冷房需要が大きくなる時間帯の空調負荷を抑えることができます。
このように蓄熱材は、熱エネルギーを「つくったらすぐ使う」という利用方法から、「必要なときに使う」という利用方法へ変えるための技術といえます。
そのため、蓄熱技術は工場排熱の有効利用、空調負荷の平準化、再生可能エネルギーの活用、温度管理など、幅広い分野で利用されています。米国エネルギー省(DOE)も、蓄熱技術(Thermal Energy Storage:TES)を、発電、暖房、産業プロセスなど幅広い用途に適用できるエネルギー貯蔵技術として整理しています[1]。

「熱を蓄える」とはどういうことか
では、「熱を蓄える」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。
ここで重要なのは、熱そのものを物質のように容器の中へ閉じ込めているわけではないということです。
熱とは、温度差によって物体間を移動するエネルギーです。一方、物質の内部に保持されているエネルギーは、内部エネルギーなどの状態量として表されます。
例えば物質を加熱すると、外部から熱としてエネルギーが移動し、物質の温度が上昇したり、固体から液体へ相変化したりします。蓄熱では、こうして材料の状態を変化させることでエネルギーを保持し、必要なときに再び熱として取り出します。
逆に冷熱を利用する場合には、あらかじめ材料から熱を取り除いておき、使用時に周囲から熱を吸収させます。「冷熱」という独立したエネルギーが蓄えられているわけではなく、周囲から熱を吸収できる状態をあらかじめつくっている、と考えると分かりやすいでしょう。
熱エネルギーを蓄える方法には、材料の温度変化を利用する方法、相変化を利用する方法、可逆的な化学反応などを利用する方法があります。 これらは、それぞれ「顕熱蓄熱」「潜熱蓄熱」「化学蓄熱」と呼ばれます。
蓄熱材の種類と仕組み|顕熱・潜熱・化学蓄熱の違い
「顕熱蓄熱」「潜熱蓄熱」「化学蓄熱」のそれぞれの方式は、蓄えられる熱量だけでなく、使用できる温度域、蓄熱密度、熱を出し入れする速度、長期保存性、材料の安定性、システムの複雑さ、コストなどに違いがあります。
そのため、蓄熱材を選ぶ際には、何℃の熱を、どれだけ蓄え、どのくらいの時間保存し、どのような速度で取り出したいのかという使用条件に合わせて、材料と蓄熱方式を選定することが重要です。
ここから、それぞれの仕組みと特徴を詳しく見ていきます。
顕熱蓄熱|材料の温度変化を利用して熱を蓄える
顕熱蓄熱とは、物質の温度変化を利用して熱エネルギーを蓄える方法です。水を温めてお湯として熱を蓄えることが、最も身近な例です。
相変化が起こらず、比熱容量を一定とみなせる場合、材料に蓄えられる顕熱量は、基本的に次の式で表すことができます。
Q = mcΔT
ここで、Qは蓄えられる熱量、mは蓄熱材の質量、cは比熱容量、ΔTは温度変化を表します。
この式から分かるように、顕熱として蓄えられるエネルギー量は、材料の密度、体積、比熱容量、温度変化などで決まり、同じ質量を同じ温度だけ変化させる場合、比熱容量が大きい材料ほど多くの熱を蓄えることができます。
例えば水は比熱容量が比較的大きく、安価で取り扱いやすいことから、温水蓄熱などで広く利用されています。
顕熱蓄熱の大きな特徴は、原理が比較的単純で、材料の選択肢が多く、大規模な蓄熱システムにも適用しやすいことです。
一方、熱を蓄えたり取り出したりすると材料の温度が変化するため、一定の温度域で熱を利用したい用途では、その温度変化を考慮する必要があります。また、利用できる温度差が小さい条件で大きな熱量を蓄えようとすると、多くの蓄熱材が必要になり、蓄熱槽が大型化する場合があります。
したがって顕熱蓄熱では、単に「何kgの材料を使うか」だけではなく、材料の比熱容量と、実際に利用可能な温度差をどれだけ確保できるかが重要になります。
潜熱蓄熱|相変化を利用して大きな熱量を蓄える
潜熱蓄熱とは、物質の相変化に伴って吸収・放出される潜熱を利用して熱エネルギーを蓄える方法です。
代表的なのが、固体と液体の間で起こる融解・凝固です。
身近な例として氷を考えてみましょう。氷に熱を加えていくと、まず温度が上昇します。融点に達すると、加えられた熱は主として氷を水へ相変化させるために使われます。このとき吸収される熱が「融解潜熱」です。
逆に、水が氷へ凝固するときには、相変化に伴って熱が周囲へ放出されます。
相変化に伴って蓄えられる潜熱量は、基本的に次の式で表すことができます。
Q = mL
ここで、Qは相変化によって蓄えられる熱量、mは蓄熱材の質量、Lは単位質量当たりの相変化潜熱を表します。
(なお、実際の蓄熱では相変化に伴う潜熱だけでなく、相変化前後の温度変化による顕熱も蓄熱量に含まれる場合があります。)
潜熱蓄熱の大きな特徴は、相変化温度付近の比較的狭い温度範囲で、大きな熱量を蓄えたり放出したりできることです。
これは、材料の温度変化を利用して熱を蓄える顕熱蓄熱との重要な違いです。
例えば、特定の温度付近を維持したい温度管理用途では、その温度域に適した相変化温度を持つ材料を選ぶことで、相変化に伴う熱の吸収・放出を利用して温度変化を緩和できます。
ただし、潜熱が大きければ、それだけで優れた蓄熱材になるわけではなく、実際のシステムでは、相変化温度、潜熱量、熱伝導率、密度、過冷却、相分離、体積変化、繰り返し耐久性など、さまざまな特性を考慮する必要があります。
また、システムによっては、「どれだけ熱を蓄えられるか」と「どれだけ速く熱を出し入れできるか」は別の性能であるという点が重要なポイントになります。大きな潜熱を持つ材料であっても、熱伝導率が低ければ材料内部への熱移動が律速となり、充放熱に時間がかかる場合があります。必要とする熱量を必要な時間で利用することができないと効果的なシステム構築ができません。したがって、システムに応じた蓄熱材の性能評価、例えば、蓄熱量に加えて、熱交換器の構造、伝熱面積、蓄熱材の配置などを含めた伝熱設計が重要になります。
PCM(相変化材料)とは
潜熱蓄熱に用いられる材料として、よく目にする言葉が「PCM」です。
PCMとは「Phase Change Material」の略で、日本語では「相変化材料」と呼ばれます。相変化に伴って熱を吸収・放出する性質を利用する材料の総称です。熱エネルギー貯蔵では、特に固体と液体の間の相変化に伴う潜熱を利用するPCMが広く研究・利用されています。
PCMの重要な特徴は、目的とする使用温度域に合わせて相変化温度の異なる材料を選択できることです。
低温域の温度管理に適したものから室温付近、さらには高温域で相変化するものまで、さまざまなPCMがあります。つまり、「PCM」という特定の一種類の物質があるわけではなく、用途に応じて異なる相変化温度や熱物性を持つ材料がPCMとして利用されています。
代表的なPCMには、パラフィン類などの有機系材料、塩水和物などの無機系材料があります。それぞれ、相変化温度、相変化潜熱、熱伝導率、密度、体積変化、安定性、安全性、コストなどが異なります。
PCMを選定する際に注意したいポイントは、潜熱の値だけでなく、何℃で相転移するか、です。特に、温度管理を目的とする場合、潜熱が大きくても相変化温度が目的とする温度域から外れていれば、その潜熱を効果的には利用できません。例えば、-15℃程度以下の温度管理が必要な冷凍食品を氷で保冷しようとしても、0℃付近で融解する氷では、必要な温度域を維持することはできません。用途側の条件から考えることが必要です。

化学蓄熱|化学反応や吸着・脱着を利用して熱を蓄える
化学蓄熱は、主に可逆的な化学反応に伴う吸熱・発熱を利用して、熱エネルギーを貯蔵する方法です。
例えば、加熱によってある化合物を複数の物質へ分解し、それらを分離して保存しておきます。熱が必要になったときに逆反応を起こせば、反応に伴って熱を取り出すことができます。
また、広い意味での熱化学的なエネルギー貯蔵には、水蒸気などの吸着・脱着を利用する「吸着蓄熱(ソープション蓄熱)」も含めて扱われることがあります。これは必ずしも化学反応そのものを利用する方式ではなく、吸着・脱着に伴う熱の出入りを利用するものです。
化学蓄熱や吸着蓄熱の特徴として、材料や反応系によっては、高い蓄熱密度を実現できる可能性があります。
さらに、反応物などを適切に分離した状態で保存できれば、高温のまま保持し続ける必要がないため、長期間のエネルギー貯蔵に適したシステムを構築できる可能性があります。
そのため、産業排熱の有効利用や、長期間の熱エネルギー貯蔵などへの応用も期待されています。
一方で、実用化にあたっては、反応温度、反応速度、繰り返し反応による材料劣化、熱・物質移動、材料や装置の耐久性、コストなどを総合的に検討する必要があります。 化学蓄熱は高いポテンシャルを持つ一方で、材料単体の蓄熱性能だけではなく、反応器を含めたシステム全体の設計が特に重要な蓄熱方式といえます。
顕熱・潜熱・化学蓄熱をどう使い分けるのか
ここまで見てきたように、顕熱蓄熱、潜熱蓄熱、化学蓄熱には、それぞれ異なる特徴があります。
どの方式が最も優れているかではなく、用途に対してどの方式が適しているかという視点が重要です。
| 蓄熱方式 | 熱を蓄える原理 | 主な特徴 | 主な検討ポイント |
| 顕熱蓄熱 | 材料の温度変化 | 仕組みが比較的単純で大容量化しやすい | 比熱容量、使用温度差、熱損失 |
| 潜熱蓄熱 | 相変化に伴う潜熱 | 狭い温度域で比較的大きな熱量を蓄えられる | 相変化温度、潜熱量、熱伝導率、耐久性 |
| 化学蓄熱 | 主に可逆的な化学反応など | 高い蓄熱密度や長期保存が期待できる | 反応速度、材料安定性、熱・物質移動、装置構成 |

実際の蓄熱システムを設計する際には、必要な温度域、必要な蓄熱量、充放熱に使える時間、蓄熱期間、設置スペース、コスト、安全性、耐久性などの条件を整理し、それに適した蓄熱方式と材料を選ぶことが重要です。
この記事のポイント
- 蓄熱材は、熱エネルギーを一時的に蓄え、必要なときに利用するための材料です。
- 蓄熱には、顕熱蓄熱・潜熱蓄熱・化学蓄熱があります。
- PCMは相変化に伴う潜熱を利用する材料です。
- 潜熱が大きいだけでは、優れたPCMとはいえません。
- 蓄熱材は、蓄熱量だけでなく温度域や充放熱速度を含めて選定する必要があります。
- 実際の性能は、材料だけでなく熱交換器・容器・断熱などを含むシステム全体で決まります。
参考資料
[1]U.S. Department of Energy, “Thermal Energy Storage Technology Strategy Assessment,” 2023.
https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-07/Technology%20Strategy%20Assessment%20-%20Thermal%20Energy%20Storage.pdf
