ビルの冷暖房に使う水、日射で温まるコンクリートの床、高温の砂や塩類を蓄える設備。これらは、材料の温度変化を利用する顕熱蓄熱の例です。同じ蓄熱方式でも、材料によって使える温度域や熱の出し入れの方法は異なります。

本記事では、水、コンクリート・岩石・れんが、砂・セラミックス、溶融塩について、蓄熱材として実際に使われる姿を中心に紹介します。材料の特徴と、蓄熱量や熱交換方法を比較するときの見方も整理します。

顕熱蓄熱材にはどのような材料が使われるのか

顕熱蓄熱は、材料の温度変化によってエネルギーを蓄える方法です。液体では水や溶融塩、固体ではコンクリート、岩石、れんが、砂、セラミックスなどが使われます。 基本原理や潜熱蓄熱・化学蓄熱との違いは、第1回「蓄熱材とは?熱エネルギーを蓄えて有効利用する材料」で解説しています。

材料の全体像は、次のように整理できます。

材料主な使い方の例熱を出し入れする方法の例温度域を考えるときのポイント
水冷暖房、給湯水の循環、熱交換器液体で使い、凝固・沸騰を避ける。圧力も影響する。
コンクリート・岩石・れんが建物の温度変動緩和、専用の蓄熱装置埋設配管、隙間や流路を通る空気建物の室温付近の利用と、高温向け材料による利用を区別する。
砂・セラミック粒子高温蓄熱、地域暖房、産業用熱、太陽熱発電固定層内の配管、移動する粒子と流体の熱交換材料・組成・装置ごとに耐熱性と使用温度が異なる。
溶融塩太陽熱発電などの高温蓄熱液体の塩を循環させる凝固を避け、高温での安定性を考慮する。

※表は代表的な用途・方式を示しています。使用できる温度域は、材料の種類・組成、装置構成、運転条件によって異なります。

比熱容量や密度は温度によって変わり、固体材料や溶融塩では種類・組成による違いもあります。そのため、材料名だけで蓄熱量を比較することはできません。まずは、それぞれの代表的な使い方を見ていきましょう。

水|冷暖房や給湯に使われる身近な蓄熱材

水は、顕熱蓄熱に使われる代表的な材料です。室温付近の液体の水の比熱容量は約4.2 kJ/(kg·K)で、水1 kgの温度を1℃変えると、約4.2 kJのエネルギーが出入りします。多くの一般的な固体材料に比べて質量当たりの比熱容量が大きく、入手しやすいことから、冷暖房や給湯の蓄熱に使われています[1、2]。

代表的な使い方が、ビルなどの水蓄熱式空調システムです。冷房の場合は、冷凍機などで冷やした水を、断熱された蓄熱槽に蓄えます。冷房が必要になると、この冷水をポンプで空調機へ送ります。空調機の熱交換器では、室内の空気から冷水へ熱が移り、冷やされた空気が室内に送られます。熱を受け取って温度が上がった水は、蓄熱槽側へ戻ります。

例えば、夜間に冷水をつくって蓄え、昼間の冷房に利用すれば、昼間に冷凍機が担う負荷を減らせます。このように水蓄熱は、冷水をつくる時間と冷房に使う時間を分け、電力需要が集中する時間帯の負荷を抑えるために利用されます[2]。

水蓄熱では、使用する水の量も重要です。例えば、100 m³(約100トン)の水を5℃から10℃まで利用する場合、この温度差5℃の間に吸収できる顕熱量は約580 kWhです。水100 m³は、縦5 m・横5 m・深さ4 mの空間に相当します。実際の設備では、槽の構造や断熱などのためのスペースも必要になります。

利用する温度差が同じなら、水の量が多いほど蓄熱量も大きくなります。一方、使える温度差が小さければ、同じ熱量を扱うために、より多くの水が必要です。そのため、必要な冷暖房の熱量と使用温度差に応じて、蓄熱槽の容量を決めます。

温水を蓄える場合も、基本的な考え方は同じです。ヒートポンプなどで温めた水を蓄熱槽に蓄え、必要なときに暖房へ利用します。家庭で使われるエコキュートも、ヒートポンプで沸かしたお湯を貯湯槽に蓄え、台所や浴室への給湯に使う例です。冷水は周囲から熱を受け取って温度が上がり、温水は熱を渡して温度が下がります。どちらも、水の温度変化を利用する顕熱蓄熱です[2]。

液体の水を利用するため、使用温度には制約があります。大気圧下の純水は約0℃で凝固し、約100℃で沸騰します。加圧すれば100℃を超える液体の水も使えますが、圧力に対応した設備が必要です。また、水質や接触する材料によっては腐食やスケール(成分が析出した付着物)が生じるため、水質管理にも配慮します[3]。なお、氷の融解・凝固を利用する氷蓄熱は、潜熱蓄熱に分類されます。

※約580 kWhは、比熱容量を4.2 kJ/(kg·K)、密度を約1,000 kg/m³として求めた顕熱量の計算例です。電力消費量を示す値ではありません。実際に冷房へ利用できる熱量は、熱損失や槽内の混合、熱交換条件などによって異なります。

コンクリート・岩石・れんが|固体の温度変化を利用する蓄熱材

コンクリート、岩石、れんがも、顕熱蓄熱に使われる材料です。材料を固定したまま使えるため、建物の床や壁のほか、専用の蓄熱装置にも利用されます。

建物の床や壁に熱を蓄える

身近な例が、コンクリートの床や、れんが・石材を使った壁です。例えば冬には、窓から入る日射で床や壁が温められ、日射がなくなって室温が下がると、蓄えたエネルギーを室内へ熱として放出します。こうした働きによって、室温の変動を緩やかにできます[4]。

建物の温度変化を抑えるうえでは、材料の蓄熱性と断熱性の両方が関係します。断熱材は主に熱の伝わりにくさを利用し、建物の内外を行き来する熱を減らします。断熱材にも熱を蓄える性質はありますが、コンクリートなどの床や壁では、熱容量の大きさを利用した蓄熱の働きに着目します。蓄熱と断熱を組み合わせ、日射や換気を調整することで、室内の温熱環境を整えることができます。

配管や空気を通して、蓄えた熱を取り出す

専用の蓄熱装置では、コンクリートの内部に配管を埋め込む方法があります。配管に高温の液体などを流すと、配管を介してコンクリートが加熱されます。熱が必要なときには、コンクリートより温度の低い流体を流し、蓄えたエネルギーを熱として取り出します。

ドイツ航空宇宙センター(DLR)などは、高温用途向けのコンクリートと埋設配管を組み合わせ、300~400℃域で蓄熱装置の試験を行っています。建物の室温付近での利用に加え、材料と装置を適切に設計すれば、産業用の高温蓄熱にも利用できることを示す例です。ただし、この温度域は通常の建築用コンクリート全般に当てはまるものではありません[5]。

岩石やれんがでは、容器内に材料を詰め、その隙間や設けた流路に空気を通す方式もあります。蓄熱時は高温の空気から固体へ熱を渡し、放熱時は固体から温度の低い空気へ熱を渡します。こうして得られた熱風を、加熱工程などに利用します。岩石などを詰めた構造は「充填層」と呼ばれます[6]。

固体の蓄熱量は、材料の質量、比熱容量、利用する温度差によって決まります。設置する体積から蓄熱量を考える場合には、密度も関係します。また、蓄えた熱を必要な速さで取り出すには、材料内部まで熱が伝わるよう、配管の間隔や固体の大きさ、空気の流路を工夫します。

使用できる温度や耐久性は、コンクリートの配合、岩石の種類、れんがの材質によって異なります。特に高温用途では、耐熱性と繰り返し加熱・冷却への耐久性を考慮した材料を選びます。コンクリートでは、初期加熱時に内部の水分が蒸発するため、乾燥や加熱の進め方にも配慮が必要です[5]。

砂・セラミックス|粒子を利用した高温の蓄熱材

砂やセラミック粒子も、温度変化を利用してエネルギーを蓄える顕熱蓄熱材です。高温で安定して使える材料では、液体の水を大気圧下で利用する場合よりも広い温度差を確保でき、大きな蓄熱量を得る選択肢になります。

ただし、高温粒子蓄熱に使われる粒子が、すべて一般的な天然砂というわけではありません。主に二酸化ケイ素からなるケイ砂のほか、ボーキサイトを高温で焼き固めた「焼結ボーキサイト」などのセラミック粒子も使われます。材料の組成や粒の大きさ・形によって、耐熱性や流動性、熱交換のしやすさが異なります。

砂を容器に蓄え、配管を通して熱を出し入れする

砂を固定して使う方式では、断熱された容器に砂などを入れ、その内部に熱交換用の配管を配置します。電気ヒーターで加熱した空気を配管に循環させると、配管を介して砂が温まり、エネルギーを蓄えます。熱が必要なときには、砂から空気へ熱を渡し、熱交換器を通じて暖房用の温水や産業用の熱として利用します。

フィンランドのPolar Night Energyが開発する「砂電池」は、この方式の一例です。同社は、蓄熱材料を最大約600℃まで加熱する設計を紹介しています。名称に「電池」とありますが、ここで紹介する方式は、電気を熱に変換して蓄え、熱として取り出すものです。また、同社の設備では砂だけでなく、砂に似た粒状材料や産業副産物も利用されます[7]。

砂のような粒状材料は、容器に充填してまとまった量を使える点が特徴です。ただし、熱をどれくらいの期間保持できるかは、材料だけでは決まりません。貯蔵温度、設備の大きさ、断熱構造、利用先で必要な温度によって変わります。

粒子を動かし、加熱・貯蔵・熱交換を行う

粒子そのものを設備内で移動させる方式もあります。代表例が、太陽熱を利用する「落下粒子式受熱器」です。多数の鏡で集めた太陽光を、塔の上部で落下する粒子に当て、粒子を直接加熱します。高温になった粒子を断熱された容器に蓄え、必要なときに熱交換器へ送り、別の流体に熱を渡します。その熱を、発電や産業用の加熱に利用する構成です。

米国のサンディア国立研究所(Sandia National Laboratories)では、焼結ボーキサイト粒子を用いた高温粒子システムの研究・実証が進められています。太陽光で直接加熱する場合は、比熱容量や耐熱性に加え、光を吸収する性質も材料選びに関係します[8、10]。

天然の砂とセラミック粒子のどちらが適するかは、温度だけでなく、加熱方法や粒子の扱い方によっても変わります。Davenportらは、特定のケイ砂について1,200℃での長時間・繰り返し試験を行い、対象とする蓄熱システムの候補材料として評価しています。これは選定した試料の結果であり、天然砂全般に同じ耐久性があることを示すものではありません[9]。

高温で繰り返し使う際には、粒子同士が結び付く焼結や、摩耗による微粉化に配慮します。粒子を移動させる方式では、搬送装置や熱交換器の摩耗も考慮します。材料の蓄熱性に加え、安定して熱を出し入れできる構成を選ぶことが重要です[10]。

溶融塩|高温の液体を循環させる蓄熱材

溶融塩とは、塩類を加熱して液体にしたものです。水に塩を溶かした塩水とは異なり、塩そのものが溶けて液体になっています。高温の液体としてタンクに蓄え、ポンプで循環させられるため、熱を蓄える媒体と運ぶ媒体を兼ねることができます。

代表例の一つが、硝酸ナトリウム60質量%と硝酸カリウム40質量%を混合した「ソーラーソルト」です。太陽熱発電の蓄熱媒体として利用されており、液体状態の温度を上げてエネルギーを蓄え、熱を取り出すと温度が下がります[11、12]。

二つのタンクを使い、高温の塩を蓄える

使い方の一例が、高温槽と低温槽を組み合わせた「二槽式」の蓄熱システムです。太陽熱発電では、低温槽から送った塩を、集光した太陽光を受ける装置で加熱し、高温槽へ蓄えます。別の熱媒が受け取った太陽熱を、熱交換器を介して塩へ渡す構成もあります。

発電するときは、高温槽から塩を熱交換器へ送り、水を加熱して蒸気をつくります。その蒸気でタービンを駆動し、電気を生み出します。熱を渡して温度が下がった塩は低温槽に戻り、再び加熱されます。この仕組みにより、日射がある時間に得た熱を蓄え、日没後などにも発電に利用できます[13]。

ドイツ航空宇宙センター:DLRの報告では、ソーラーソルトを用いる二槽式蓄熱について、低温槽を約290℃、高温槽を約565℃とする運転例が示されています。「低温槽」といっても室温に近いわけではなく、どちらの槽でも塩を液体に保っています。この温度範囲は代表的な運転例であり、すべての溶融塩に共通するものではありません[11]。

液体の温度変化を利用する顕熱蓄熱

ソーラーソルトの比熱容量は室温付近の水より小さいものの、上記の例では約275℃という広い温度差を利用します。高温域で広い温度差を使えることが、顕熱蓄熱材としての重要な特徴になります[11]。

ここで利用しているのは、塩を溶かしたり固めたりする際の潜熱ではなく、液体状態での温度変化です。一方、塩類の融解・凝固を積極的に利用する場合は潜熱蓄熱となります。同じ材料でも、利用する温度域と熱の蓄え方によって分類が変わります。

使用上の注意点は、塩を液体に保つことです。ソーラーソルトは単一の温度ではなく、温度範囲を持って融解・凝固します。冷えて固体が生じると配管などが閉塞するおそれがあるため、停止時も含めた保温や補助加熱が必要です。また、高温側では塩の化学的安定性や接触する金属の腐食を考慮します。使える温度域は、塩の種類・組成と装置の材料によって異なります[11~13]。

顕熱蓄熱材の違いをどう捉えるか

顕熱蓄熱材は、比熱容量の大小だけでは比較できません。水から高温の粒子・溶融塩まで、それぞれの特徴を理解するには、次の三つのポイントが役立ちます。

  • 蓄えられる量
    蓄熱量は、材料の質量と比熱容量、利用する温度差によって決まります。同じ質量・同じ温度差なら、比熱容量が大きいほど蓄熱量は大きくなります。設置スペースを考える場合は、密度を含めた体積当たりの比較も必要です。砂や岩石を詰めた装置では、粒子間の隙間を含む「かさ密度」を使います。
  • 使える温度
    利用先で必要な温度に合わせて、材料を考えます。例えば、冷暖房や給湯には水、高温の熱利用には耐熱性のある固体や粒子、溶融塩が使われます。材料によって利用できる温度差も異なるため、比熱容量が小さくても、広い温度差を使うことで大きな蓄熱量を得られる場合があります。
  • 熱を出し入れする方法と速さ
    必要な量を蓄えることに加え、必要な速さで熱を受け渡せることも重要です。水や溶融塩は液体を循環させます。固体では配管や空気を介して熱を出し入れするほか、粒子を移動させて熱交換器へ送る方式もあります。比熱容量が蓄えられる量に関わるのに対し、熱伝導率は材料内部での熱の伝わりやすさを表します。実際の熱交換の速さは、配管の間隔、粒子の大きさ、流体の流量などにも左右されます。

なお、材料が蓄えられる熱量と、装置全体で利用できる熱量は同じではありません。外部への熱損失や槽内の温度分布、熱交換の条件によって、必要な温度で取り出せる熱量は変わります。

顕熱蓄熱材の特徴は、材料の性質と使い方を合わせて見ることで理解できます。

次回は、融解・凝固などの相変化を利用する潜熱蓄熱材(PCM)について、代表的な材料の特徴と使い方を解説します。

参考資料

[1]National Institute of Standards and Technology(NIST). NIST Chemistry WebBook, SRD 69, “Water,” Liquid Phase Heat Capacity(Shomate Equation). データ出典:Chase, M. W., Jr., NIST-JANAF Thermochemical Tables, Fourth Edition, Journal of Physical and Chemical Reference Data, Monograph 9, 1998.

※室温付近のモル熱容量を分子量で換算して参照。

[2]一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター「蓄熱のバリエーション」「蓄熱式空調システムのポイント」「蓄熱のメリット」.

[3]一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター『蓄熱式空調システムにおける水質保全設計・管理マニュアル』, HPTCJ-346, 2012年10月.

[4]U.S. Department of Energy. “ZEB Technologies: Passive Design Techniques.”

[5]Laing, D., Lehmann, D., and Bahl, C. “Concrete Storage for Solar Thermal Power Plants and Industrial Process Heat.” Proceedings of the Third International Renewable Energy Storage Conference (IRES 2008), Berlin, Germany, November 24–25, 2008.

[6]Odenthal, C., Steinmann, W.-D., and Zunft, S. “Analysis of a horizontal flow closed loop thermal energy storage system in pilot scale for high temperature applications – Part I: Experimental investigation of the plant.” Applied Energy, Vol. 263, Article 114573, 2020. DOI: 10.1016/j.apenergy.2020.114573.

[7]Polar Night Energy. “Sand Battery.”

[8]Sandia National Laboratories. “Next-Generation Concentrating Solar Power Particle Receivers Enable Inexpensive Electricity Generation with Energy Storage.”

[9]Davenport, P., Ma, Z., Schirck, J., Nation, W., Morris, A., Wang, X., and Lambert, M. “Characterization of solid particle candidates for application in thermal energy storage and concentrating solar power systems.” Solar Energy, Vol. 262, Article 111908, 2023. DOI: 10.1016/j.solener.2023.111908.

[10]Sandia National Laboratories. “Tower-based power systems.”

[11]Bonk, A., and Bauer, T. Solar Salt – Thermal Property Analysis – Extended Version: Report on thermo-physical properties of binary NaNO₃-KNO₃ mixtures in a range of 55–65 wt% NaNO₃. DLR-FB-2022-04, 2022. DOI: 10.57676/3rea-p782.

[12]U.S. Department of Energy. Thermal Energy Storage Technology Strategy Assessment. DOE/OE-0038, July 2023.

[13]German Aerospace Center(DLR). “Molten salt systems.”